「信用取引をして、大きな利益を得たい」と考えている方は、多いのではないでしょうか。
結論をいえば、信用取引は大きな利益を得られる可能性がある反面、巨額の損失を負う恐れもあるため、投資の初心者は避けたほうが懸命かもしれません。
本記事では、信用取引をやめておくべきといわれている理由や、信用取引でのリスク、失敗を防ぐ方法などをわかりやすく解説します。
信用取引とは自己資本の3.3倍まで取引できる制度
そもそも信用取引とは、どのような取引を指すのでしょうか?
株の信用取引とは、保証金を証券会社にあずける代わりに現金や株を借りることで、保証金の約3.3倍までの金額を取引できる制度です。
例えば、自己資金が100万円であった場合、その3.3倍である330万円までの取引が可能となります。投資資金が多くなることで、株価が値上がりしたときに、より大きな利益が期待できるのです。
他人の資本を使って自己資金以上の取引をすることは「レバレッジ(取引)」といわれています。例えばFXでは、レバレッジをかけることで証拠金の最大25倍まで取引が可能です。
信用買いと信用売りの違い
信用取引には「信用買い」と「信用売り」の2種類があります。
信用買いとは、証券会社から借金をして株を買う方法です。保証金の約3.3倍までの現金で株式を購入できるため、手元にあまり資金がなくても大きな利益を狙えます。
信用売りとは、証券会社から株を売って現金に変換し、あとで同じ株式を購入する方法です。売却したときの株価よりも、購入するときの株価のほうが低ければ、利益を得られます。株を持っていない状態で売るため「空売り」ともいわれます。
信用取引のメリット
信用取引のメリットは、大きく以下の2点です。
・少ない自己資金で大きな利益が期待できる
・株式相場が下落しているときでも利益をあげられる
信用取引では、証券会社から現金や株を借りて取引をすることで、自己資金以上の投資ができます。いくら利回りが高くても、投資元本が少ないと、大きな利益は期待できません。信用取引をすると投資元本を増やせるため、少ない自己資金でも大きな利益が期待できます。
現物取引は、基本的に買ってから売るしかできません。それが信用取引であれば、売ったあとに買い戻すことで利益を得られるため、株式相場が下落していても利益を得やすいのです。
「株の信用取引はやめとけ」といわれる理由5選
大きな利益が期待できるだけでなく、株式相場が下落しているときでも利益が狙える信用取引ですが、なぜ投資の初心者が手を出してはいけないといわれているのでしょうか。
それは、信用取引に以下5つの注意点があるためです。
・借金を背負うリスクがある
・コストがかかる
・空売りで損失を負うリスクは無限大
・追証が発生するリスクがある
・長期投資には向かない
1つずつ見ていきましょう。
借金を背負うリスクがある
信用取引では、証券会社にあずけている保証金を超えて損失が膨らむと借金を背負うことになります。
自己資金が100万円で、現物取引と信用取引をする例で考えてみましょう。
現物取引の場合、自己資金100万円のみを運用するため、株価が1/2になっても損失が50万円になるだけで借金は負いません。
一方、自己資金100万円を保証金に300万円を運用する場合、投資先の株価が1/2になると資産は150万円まで減り、150万円の損失が発生します。
保証金は100万円ですので、超過した50万円は証券会社に対する借金となるのです。
株式投資では、投資先企業の不祥事や大震災をはじめとした自然災害、ウイルス感染症の流行など、さまざまな要因で株価が下落します。
信用取引では、株価が少し下がるだけで数十万円や数百万円の含み損が発生するケースが珍しくありません。含み損が拡大したことで、大きなストレスを抱えてしまい、日常生活に支障が出てしまう投資家もいるのです。
コストがかかる
信用取引では「金利」や「貸株料」といったコストが発生します。これは、証券会社からお金や株式を借りたことで発生するコストです。
まず信用買いでは、証券会社から借りたお金に対して金利(買方金利)が発生します。金利とは、借り入れた元本に対する利息の割合です。信用買いにおいて証券会社から借りたお金は、通常の借金と同じように元本に利息を上乗せして返さなければなりません。
また信用売りをしたときは「貸株料」というレンタル料が発生します。特定の銘柄の貸し出しが増えると「逆日歩」というコストも負担しなければなりません。
金利の相場は年2.8〜3.5%、貸株料の相場は、年1.1〜1.4%程度です。
簡単にいえば、投資したことによるリターンが、信用買いでは2.8〜3.5%程度、信用売りでは1.1〜1.4%程度減ってしまうことを意味します。
信用売り(空売り)で損失を負うリスクは無限大
信用売りには「買いは家まで売りは命まで」という格言があります。売りは命までの言葉が示すとおり、信用売りでは損失が無限に膨らんでいく可能性があるのです。
仮に80万円相当の株を借りて80万円の現金に変換した場合、株価が60万円に下がったタイミングで買い戻せば20万円の利益を得られます。
しかし株価が下がらず、100万円、200万円と上昇を続け、最終的に1,000万円となった場合は、損失は920万円まで膨らんでしまうのです。
また株価が暴落すると、株を買いたいと思う投資家が現れなくなるため、強制的に売却するのが困難となります。
信用売りは、株価が下がる局面でも利益を狙いやすい反面、買い戻す予定の企業が成長を続けて株価が上昇していくと、損失がどこまでも膨らんでいってしまいます。
追証が発生するリスクがある
追証とは、損失が膨らんだときに追加で差し出す必要がある保証金のことです。損失が膨らみ、証券会社ごとに決められた最低の委託保証金維持率を割り込むと、追加で保証金を差し出す必要があります。
委託保証金維持率の計算式は、次のとおりです。
(委託保証金-買い建てた株の評価損)÷買い建てた株の評価額×100
例えば、保証金が100万円、買い建てた株の価値が300万円、証券会社が定める委託保証金維持率が25%であるとしましょう。
株価が下落し、30万円の含み損が発生すると、委託保証金維持率は(100万円-30万円)÷300万円×100=23.3%となり、25%を下回ってしまうため追加の保証金の入金する必要があります。※諸費用は考慮せず
また期日をすぎると、口座内の保有資産がすべて自動的に決済されてしまいます。
このように信用取引では、自分自身が意図しないタイミングで現金の支払いが必要となっており、保有する株が決済されたりする恐れがあるのです。
長期投資には向かない
長期投資とは、簡単にいえば同じ銘柄を長期にわたって保有し続ける投資方法です。
1日単位でトレードをする「デイトレード」をはじめとした短期投資で利益を得るためには、豊富な専門知識や高い分析能力などが求められます。そのため知識や経験があまりない投資の初心者は、長期投資から始めたほうが良いとされています。
しかし信用取引は、長期投資の手段としてはあまり適しません。損失が膨らむと強制的に決済されてしまい、知らぬ間に資金がなくなっていることがあるためです。
また放置しているあいだ、金利や貸株料といったコストがかかり続けるのも、信用取引が長期投資には向かない理由です。
信用取引が向いている人の特徴
信用取引が向いているのは、簡単に言えば株式投資の経験が豊富な人です。
信用取引は、基本的に短期取引で利益を狙っていく投資方法であるため、専門知識や分析能力が求められます。
信用売りでは、たしかに相場が下落する局面でも利益を狙えます。しかし投資しようと考えている銘柄や株式相場が下落するか見抜くのは、簡単なことではありません。
また追証を避けるためには、レバレッジを抑えるほか、自分なりの損切りラインを決めて取引したり、逆指値注文を活用したりなど、さまざまな対策が必要です。
※逆指値注文とは、通常の指値注文とは逆に「株がこの値段に上がれば買う」「株がこの値段に下がれば売る」と指定する注文方法
このように信用取引は、株取引の経験や知識が豊富な玄人向けの投資であるといえるため、投資の初心者は他の方法で株取引を始めたほうが良いでしょう。
投資の初心者は現物取引をする
それでは、投資の初心者はどのように株取引をすれば良いのでしょうか。株式投資の初心者は、現物の株取引を少額から始めるのがおすすめです。
現物の株取引であれば、多額の借金を背負うことも、損失が無限に膨らむことも、追証を求められることもありません。少額から株の現物取引を始めて、相場の動き方や銘柄の選び方などを学んでいくと良いでしょう。
基本的に株式投資では、1単元=100株単位での取引となります。そのため少額から始めたい方は、1株から株を売買できる証券会社で口座を開くのも方法です。
2021年11月現在、1株から株を買えるサービスを提供している代表的な証券会社は次のとおりです。
証券会社 | サービス名 |
LINE証券 | いちかぶ |
SBI証券 | S株 |
SBIネオモバイル証券 | S株 |
マネックス証券 | ワン株 |
SMBC日興証券 | 株式ミニ投資 |
岡三オンライン証券 | ー |
どこで口座を開こうか迷っている方は、この中からいくつかの証券会社で口座を開設してみてはいかがでしょうか。
まとめ:投資の初心者に信用取引はおすすめできない
信用取引は、保証金を預けて証券会社から現金や株を借りることで自己資金以上の投資ができるため、高いリターンが期待できます。
また相場が下落する局面でも利益を狙いやすいのも、信用取引のメリットです。
しかし信用取引に失敗すると、多額の借金を背負ったり損失が無限に膨らんだりする恐れがあります。非常にリスクが高い取引であるといえるため、投資の初心者にはおすすめできません。
たとえ短期間で多額の利益を得たいと考えていても、投資の初心者は、自己資金の範囲内で現物の株取引から始めるのがおすすめです。